大竹海兵団
昭和初期の頃、日本における重要な海軍基地であった呉鎮守府では、当時東洋一を誇る海軍工廠を中心に、艦船・兵器の造修にありったけの力が注がれていました。
また、海兵団においても兵員の訓練に取り組んでいましたが、昭和14年(1939年)にはこれまでよりもさらに大量の兵員養成の必要が生じ、海兵団の新設が秘密裏に計画されることになり、その候補地に大竹や安浦などがあげられていました。
当時、大竹町では小方村に新興人絹株式会社が誘致されたのを契機に、新しい企業誘致を計画していましたが、敷地造成などに多額の費用がかかるため、容易には実現できませんでした。
海兵団の新設計画が進められ、その候補地として大竹町が有力されるようになると、大竹町はこれに賛成し、計画が具体化されることになりました。
昭和14年(1939年)6月、呉海軍建築部長から大竹町長に対して軍用地の買収依頼が通達されました。大竹町ではただちに指定区域の調査に乗り出し、土地所有者に協力を求めるとともに漁業補償、潮遊地の埋立、家屋移転などに取り組みましたが、軍の強力な要請に基づくものであるため、それらの交渉は急速に進み、翌年の昭和15年(1940年)2月には兵舎の建築に着手されることになりました。
また、兵舎の建設工事と並行して、上水道施設や住宅施設などの建設も進められ、工事半ばの昭和15年(1940年)12月には呉海兵団大竹分団として三個分隊(約750人)の新兵教育が行われることになりました。
その後、施設の充実にともない兵員の増強も図られ、昭和16年(1941年)11月20日には大竹海兵団として発足し、昭和17年(1942年)1月に第一回の入団式が挙行されました。
大竹海兵団では発足当時は3,000人程度の新兵教育を行っていましたが、昭和18年(1943年)以降には7,000人~8,000人にも達し、教官その他の要員を合わせると10,000人を超えたといわれています。
新兵の教育期間は平時で6か月ですが、当時は戦時であったため3か月でした。教育内容は学科以外に射撃、砲術、銃剣術、カッター(船舶に搭載されるボート)などの厳しい基礎訓練が行われ、野外演習や行軍が大竹市域や近郊で繰り広げられ、ときにはそれらの兵隊でごったがえしたこともあったようです。
潜水学校
海軍潜水学校は、大正9年(年)に呉に設置された施設で、潜水艦の操作に必要な高度な技術を訓練する機関でした。全国でも呉に一か所しかなく、呉鎮守府に直属する組織でした。海兵団の新設についで、海軍潜水学校も兵員増強の必要から分校設置の計画があり、その候補地として横須賀、廿日市、大竹があげられました。
そして、潜航訓練にもっとも適した広島湾と伊予灘に近接する地として、小方村の烏帽子新開地先が選定され、海兵団の計画とあわせて大竹市域は重要な海軍基地としてその様相を一変することになりました。
海軍潜水学校は、昭和14年(1939年)6月に新興人絹株式会社に対して工場地先の約20,000坪(うち10,000坪は潮遊地)の分譲を申し入れて建設工事を進めますが、本格的な工事は昭和16年(1941年)からでした。昭和17年(1942年)3月に兵舎の一部が完成してから呉からの移転が開始され、11月にはすべての兵員の移転が終わり、昭和18年(1943年)6月8日に開校式が挙行されました。
兵員については、当初は文官とあわせて約1,500人でしたが、終戦時には7,000人程になり、施設も昭和17年(1942年)以降次々と拡張されました。
兵員の教育は専門教育と実習があり、実習には岸壁に係留された三隻の廃潜水艦が利用され、呉鎮守府の第18潜水隊、第19潜水隊、第33潜水隊も学校の要求に応じて潜航訓練に参加しました。なお、第33潜水隊に所属するロ号64潜水艦は昭和20年4月4日、可部島沖で潜航訓練中にB29が投下した機雷に接触して沈没し、艦長以下115人が犠牲になりました。その中には潜水学校の学生や練習生も含まれていました。
その他、大竹市域にあった軍事関係施設は次の表のとおりです。
No. | 名称 | 土地面積 | 建物面積 | 所在地 |
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1 | 大竹海兵団 | 432,673㎡ | 77,398㎡ | 大竹町 |
2 | 海軍潜水学校 | 451,453㎡ | 80,649㎡ | 小方村・大竹町 |
3 | 大楠機関学校 | 141,474㎡ | 7,065㎡ | 大竹町 |
4 | 海軍選集学校 | 144,342㎡ | 大竹町 | |
5 | 下ケ原飛行場 | 127,238㎡ | 栗谷村 | |
6 | 海軍住宅 | 4,432㎡ | 大竹町 | |
7 | 潜校官舎 | 3,438㎡ | 538㎡ | 大竹町 |
8 | 高等官集会所 | 6,144㎡ | 508㎡ | 大竹町 |
9 | 下士官集会所 | 12,533㎡ | 1,284㎡ | 大竹町 |
10 | 海軍水道施設 | 19,800㎡ | 350㎡ | 小方村・大竹町 |
11 | 第332航空隊送信所 | 25,100㎡ | 799㎡ | 大竹町 |
12 | 海軍施設部出張所 | 3,194㎡ | 大竹町 | |
13 | 大竹工員宿舎 | 878㎡ | 大竹町 | |
14 | 小方工員宿舎 | 769㎡ | 小方村 | |
15 | 阿多田島設営訓練所 | 22,499㎡ | 23㎡ | 小方村 |
16 | 阿多田島試験標 | 663㎡ | 小方村 | |
17 | 甲島特設見張所 | 459㎡ | 小方村 | |
18 | 潜水学校疎開地 | 251㎡ | 小方村 |